菊炭の里

都市と農村をつなぐ

1月24日。朝6時。
気温マイナス5度。
街から二人の青年が能勢に来て、炭焼きの作業を体験しました。

藤井忠さん。
(ご本人のFacebookより拝借)
モナコの日本料理店で十数年のキャリアを持つ料理人兼イベンター、様々な顔を持つ若き料理人です。
料理人であるだけでなく茶道裏千家の茶道師範、華道嵯峨御流の華道師範でもあります。

茶道家としての経験も豊富な藤井さんですが、茶の湯炭の炭焼きを体験するのは初めてのこと。今日は窯出しから窯入れまで本気の作業を体験していただきました。

もう一人は西川聡志さん。29歳。
大学で環境学を学びベトナムで事業を立ち上げ活動。
帰国後、貿易会社勤務などを経てmidicaを設立。環境教育や地域資源体験型のイベントを企画運営されています。

能勢田尻では昨年「となりの農家さん」というイベントを実施され大成功でした。

藤井さんと西川さん、そして炭焼き師の小谷さんが作業の後に向かったのは「荒木谷」。2月17日の植樹会の会場です。

本日の気温は低かったですが、間伐して暖かい光が差し込むようになった荒木谷はとても気持ちの良い場所でした。二人の眼に能勢の里山はどう映ったでしょうか。

先代から炭焼きの文化を継承し現代に伝える小谷さん。茶道や料理を通して人と人を繋ぐ場を創る藤井さん。都市と農村の交流イベントを実施している西川さん。ジャンルは違いますが三人とも「つなぐ」ことが自らの仕事のテーマになっています。

「菊炭と里山を未来につなぐ」
植樹会が近づいてきました。
「つなぐ」というのはどういうことだろうか?
都市と農村を「つなぐ」ために何が必要なのだろうか?
荒木谷から事務所に戻り、火鉢を囲んで話をしました。

今日の作業お疲れ様でした。藤井さんは茶道をやっていると聞いていたから、炭窯の中に入ってもらって炭焼きがどういうものか見て欲しかったんよね。実際に体験してどうでしたか?

貴重な経験をさせてもらいました。茶道に長く関わらせていただいてますが、炭の生産者さんのことはこれまであまり知らなかったんです。例えば抹茶は詰めた問屋さんの名前は出てきますが、お茶の生産者の名前は出てきません。炭もしかりで、卸している炭屋さんは知っていても炭の生産者の名前は出て来ない。誰がどういう風に作っているか知らなかった炭を実際に現場で体験できて本当によかったと思います。

藤井さんは17歳で単身モナコに行って海外経験も長いんだけど、外国人は日本文化とくに「茶道」についてはどんなイメージを持っていると感じますか?

外国人にとってお茶は「おもてなし」というよりも禅みたいなスピリチュアルなイメージです。精神統一というか、自分自身と向き合う時間を大切にする文化がありますね。

日本を飛び出して外国に早い段階で行っている人ほど、真面目に日本文化に取り組んでいる気がするよね。藤井さんは海外で仕事をしながら、自分は日本人であって日本人でないような、いろんな葛藤があったんじゃないかと思うのだけれど、どうですか?

そうですね。モナコで日本料理をやっていくということは常に自分のアイデンティティは何か?ということと隣り合わせで毎日を過ごしているようなところがあります。だからとりあえずこれは知っておこう、合わなかったらやめよう位の気持ちで様々な日本の伝統文化に取り組んできました。

具体的にはどんなことを勉強してきたの?

茶道以外にこれまでやってきたのは華道、陶芸、漆。最近は蕎麦打ちなどもやっています。勉強したことは料理をからめて何らかのストーリー性を持たせ、ひとつのイベントにして客人に振る舞う、といったこともしています。

なるほど。日本文化をただ知識として吸収するだけでなく自分なりに消化して料理に落とし込むんやね。炭を使って何か面白いイベントはないですか?

茶事のひとつに茶飯釜というのがあります。普通の懐石では最初に一つの御膳の中にご飯と味噌汁と向付が供されるのですが、茶飯釜ではご飯より先にお酒が出ます。ご飯は五徳を使わず上から吊るした茶飯釜で炊きます。通常の茶事よりも多くの炭を使います。お酒を飲みながら、火ふき竹でフーフーと吹いたりして、みんなでご飯が炊けるのを待つんです。

へえ〜。そんなんがあるんや。面白いねえ。

みんなが体験する、参加型のイベントであるという所がひとつのポイントです。火吹き竹で吹くのもやってみると結構むずかしい。口から空気がもれたり、強く吹きすぎると灰が舞ってしまったりする。ゆっくり深く吹くことで炭が赤くなりパチパチと音を立てる。この音がまた重要な要素で、静かな茶室でお湯が沸く釜の音や炭の音を五感をフルに使って聴く。体験を共有することで、場に一体感が生まれるんです。

なるほど。「体験」っていうのは大事やね。それと、あまり作りこまないことやね。最近はグランピングとかあるけど、全部揃っている、何もかもある、それはそれでありかもしれんけど、体験としては乏しい体験やね。自分が動かないとできない。五感を使って感じないとわからない。それが体験じゃないのかな

ぼくもそう思います!

おっ!西川くん話に入ってきたね笑。
西川君は今日の炭焼き体験してみてどうだった?

はい。まず思ったのは、今日やった作業は何十年何百年もずっと変わっていない同じ内容なんだなということです。それってすごいことで、例えば野菜作るとかの農作業にしても機械が使われているわけで。炭焼きは今も昔も同じ窯、作業工程も同じ。そういうものって他にほとんどないと思うんです。だから完成された炭は、単なる炭以上の重みがあるような気がします。長い歴史が脈々とつながっているような。まさに本物だと思いました。

いいこと言ってくれるね。その価値をわかってもらうために街の人へどう伝えていったらいいと思う?

本とかテレビとかで伝えるのは無理かなと思います。やはり現地に来て感じないと本物の価値はわからないと思います。
ぜひ2月17日の植樹会に来てもらって実際に「体験」してほしいですね。

最後にうまく話がまとまりましたね。笑。

イベント名 菊炭と里山を未来につなぐ植樹会
開催日時 2018年2月17日(土)10:00〜15:00(現地)
悪天候時は18日(日)
会場 大阪府豊能郡能勢町下田尻303番2 能勢さとやま創造館および荒木谷共有林
千里中央よみうり文化センター前から送迎バスあり。
イベント内容

日本の茶道を体系化した千利休。 その利休がこよなく愛したのが茶の湯炭「菊炭」です。
原木となるクヌギの産地・能勢は今、時代の波にさらされています。炭焼きの担い手は減り、里山環境の維持が年々難しくなっています。炭焼きが途絶えてしまうことは、日本の伝統文化が失われることに加え、山に人が入ることで保たれてきた生物多様性が失われることも意味します。
100年後の未来に向けて、私たちの力をつなぎ、菊炭と里山をつなぐ植樹会を開催します。
みなさまのご参加をお待ちしています。

定員 50名
参加費 大人3000円 学生は無料(大学生も含む)
主催 大阪能勢田尻菊炭振興協議会(事務局:能勢さとやま創造館)
受付は終了しました

菊炭の里