菊炭の里

森の中の講演会

※今回の講演会の講師、畠山重篤さんについてはこちらから

森の中に会場をつくる


講演会の二週間前。
会場作りのために協議会メンバーとボランティア有志が荒木谷に集まりました。
能勢町から1000キロ離れた気仙沼からやってきてくださる畠山さんと、講演会に来られる参加者のみなさんを迎えるために、メンバー全員気合が入ります。
この日は朝から森のゴモク清掃、丸太ベンチの設営、下草刈りなどを行いました。写真の丸太でどんな会場が作られたでしょうか。楽しみです。

台風が接近、一時は開催が危ぶまれるも…

協議会メンバーがずっと気にしていたのが週末の天気。記録的な暴風の台風15号が発生し、一時は関西も影響を受ける進路が予想されていました。来場者の安全を考えると雨風が吹きすさぶ森の中で講演会は開催できません。代替案として体育館を確保していますが、「森の中の…」と銘打って準備してきただけに、体育館での開催になったら正直ガックリです。
そして講演会当日の朝。
フタを開けてみれば、まったく雨の気配を感じさせない見事な青空が広がっていました!
これまでも菊炭の里のイベントは、いろんな不安が予想されながらも、当日は大成功を迎えるという経験をしてきました。そして今回もまた、台風予報が外れてお天気に恵まれました。朝からこれは幸先が良い…気持ちも自然と高揚してきます。

参加者がぞくぞくと来場、まずはミニ菊炭講座から


本日の講演会に、遠い所は島根からご参加いただきました。毎回来てくださる方、地元能勢町民だけど荒木谷(植樹地)に入るのは初めてという方、様々な方におこしいただきました。本当にありがとうございます!
来場者は菊炭の窯場に行き、菊炭についてコンパクトにまとめられたテレビ番組を視聴。その後、菊炭師・小谷義隆氏のミニ菊炭講座が行われました。
そして会場である荒木谷へと移動。森に向かうアプローチも桜並木や美しい池があって、良い雰囲気なのです。

山頂で開会のあいさつ

協議会の活動を知っていただくために、日差しが照りつける中、荒木谷の斜面を登っていただきました。そして嶌会長から開会のあいさつ。これまでの取り組みの説明がありました。
会長の話を聞いている参加者のみなさん。暑いながらも熱心に聞いてくださっています。
植樹とともに力を入れているグリーンウッドワークについて元古さんから。作品のレベルもかなり上がっています。興味ある方はぜひ!

いよいよ講演会場へ


こちらが講演会場の様子。メンバー吉水さんが愛情こめて育ててきたサフィニアがステージを飾っていました。風に揺らめく木漏れ日が横断幕にかかって、雰囲気をさらに盛り上げています。吉水さんは当日の参加者の喉を潤す紫蘇ジュースも用意して下さいました。いつもありがとうございます!
今回のイベントも国土緑化推進機構(緑の羽募金)の支援を受けています。
丸太を並べた客席にみなさんが着席されたところ。頭に思い描いていた光景が実現して、なんだかジーンとしました。
畠山さんがステージに上がり、司会の美谷さんが畠山さんのプロフィールなどをご紹介。
ドイツのシュタットベルケ(自治体所有の公益エネルギー事業)視察から帰って来られたばかりの能勢町長さんがごあいさつ。ドイツも日本と同じように苗木に鹿避けネットをしているそうです。課題は世界共通なんですね。そして…森を愛する心を大切にしなくてはいけない、と。
そして、畠山さんのお話がはじまりました!

大阪との関わり

「森は海の恋人」や「フォレストヒーローズ」の活動を通して日本国内はもとより、世界でご活躍されている畠山さんですが、大阪との深い関わりが出来たのは震災以降のこと。津田さんという建築木材関係の大阪の会社が、東北の震災復興に尽力されたことで縁ができ、今でも社員さんが気仙沼を訪問し、植樹に参加するなど深い交流が続いているそうです。逆に畠山さんが大阪を訪れたときに、社長に連れていってもらったのが淀川河口域にいる天然うなぎの漁場。実際に巨大なうなぎが捕れたのを目の当たりにして畠山さんもびっくりしたそうです。
「いやあ、驚きましたよ。大阪のイメージといえば大都会だし、淀川なんて日本一汚い川だろう、くらいに思っていましたからね。」
「感心したのはウナギだけでなく、餌となるハゼやエビなどもいたこと。ちゃーんと食物連鎖がおこってるんですね。」
「ウナギがいるってことは環境の面からとても大切なことなんです。ウナギは人間のそばで一生を過ごす生き物ですから、淀川の川が汚かったら、ウナギは育たない。川をきれいにするのは人間の心です。つまり、ウナギが淀川で育っているということは、大阪人の心がきれいだということなんですよ…。」

「…知らんけど。」(会場笑い)

「いや実は昨晩、能勢の皆さんに大阪人は『知らんけど』を語尾につけるって聞いたんですよ。だから今日はいつこのフレーズを使おうかと思って、夜も寝られなかったんですよー(笑)」

菊炭の原料であるクヌギは自然界の母だった


畠山さんがホワイトボードに向かって文字を書き始めました。木へんに作というあまり見たことのない漢字。

「これ読めますか?ははそと読みます。昔はクヌギのことを柞と呼んでいたんですよ。」
「気仙沼は魚だけでなく、短歌も盛んなところです。近代短歌の確立に努めた国文学者・落合直文の出身地だからなんです。その影響で農民にも歌を詠んでいる人が多く、その中に熊谷武雄という人がいました。彼の代表作にこういう歌があります」

「手長野に 木々はあれども たらちねの 柞のかげは 拠るにしたしき」

手長山にたくさんの木はあるけれど、柞の木の近くにいくと、まるでお母さんの側にいるように心がやすらぐという意味です。「たらちね」というのは、母を象徴する枕詞です。昔の人も雑木林を、いのちを育む「自然界の母」になぞらえていたということなんですね。

「茶の湯に欠かせない菊炭にはクヌギが使われると聞きました。私達が30年前に植樹活動をはじめたときから植えているのも同じクヌギなんですよ。柞(ははそ)、自然界の母です。だから小谷さんと心が通じ合ったんです」

フルボ酸?植物と鉄分の関係?話はどんどん高度になってゆき…

漁師が山に木を植える「森は海の恋人」運動で注目され、教科書にも載るようになった畠山さん。でも広葉樹の雑木林がなぜ海を豊かにするのか、その関連性、科学的根拠についてはよく分からなかったそうです。そんなとき、森林と海がどう関わっているかを研究している北大の松永勝彦先生と出会いがありました。

「松永先生に植物と鉄の関係を理解しないと環境問題は進まないと教わりました。」

鉄は酸素に触れると錆びた鉄(酸化鉄)となりますが、錆びた鉄は植物が吸収できない。しかし自然界の循環の中では、鉄がちゃんと供給されている。この仕組みが今までよく分かりませんでした。

「ここに柞(ははそ)の森の力が働いていることがわかってきたんですよ。」

クヌギに代表される広葉樹の落ち葉が時間をかけて腐葉土になるときにフルボ酸という物質ができ、これが葉緑素クロロフィルに含まれる鉄と結びついて「フルボ酸鉄」と呼ばれる栄養素に変わる。このフルボ酸鉄は分子が小さく酸化しにくい性質があって非常に安定しており、ミネラル栄養分が変わることなく海に注ぎ込み植物プランクトンに取り込まれる。その結果、魚の生育に適した豊かな海となる。自然界にはこのような循環のメカニズムがあったのです。

能勢の可能性

畠山さんは能勢町のことにも言及され、とても勇気づけられる熱いメッセージをいただきました。

「今日ここに来るまでに菊炭でお湯を沸かしたお茶をいただいてきたのですが、何百年の歴史のある能勢町には本当にいろんな宝が眠っているなと思いましたよ。」

「地理と環境と人間の生活と歴史と文化というのは全部重なっているんですよ。」

「しかも新幹線で新大阪で降りて30分で来れる場所ですよ。京都も近いし。これだけの条件が揃っているのだから、ここにある文化をきちんと発信したら世界中からお客さんが来ますよ。」

「ただ、もうちょっと森を手入れして欲しいなあ。このままじゃ恥ずかしいですよ」

「ぜひ能勢町は海まで視野に入れた町づくりをして欲しいと思います。そういう心を持った町民の方が多くいてはじめて菊炭の価値が上がるんです。菊炭だけあっても意味ないですよ。何事もベースをしっかりしてから取り組むことが大事なんです。ベースとなるのは小学校からの教育ですよ。」

能勢高校生の発表


第二部は8月のマレーシアのパームツリーと環境問題の視察研修、またドイツ視察研修から戻ってきたばかりの能勢高生が学んできたことを発表しました。
菊炭の里メンバーでもある、あすみさんのスピーチをご紹介。
「ドイツのブリロン市に行ってきたのですが、高校生が森や環境についてすごく考えていて、すごいなあと思いました。一緒に英語でプレゼンをしたんですけど、みんな自分の意見を持ち、積極的に発言していて、自分からなかなか意見を言わない日本の私達とは積極性が違うなあと感じました。この一週間ドイツに行っていつもと違う世界が見れて、とても良い経験になりました。ありがとうございました」

ミニトーク&グループワーク

「いつも河川掃除の案内チラシが入っていても人ごとのように思ってましたけど、今日のお話を聞いて、これからは積極的に清掃活動に参加しようかなと思っています。」
「小学校とか幼稚園のこどもたちに、どんぐり拾いとか、山をもっと身近に感じてもらう体験をさせてほしいと思いました。」
「どう考えたって能勢はいいに決まってるんですよ。大阪市内から1時間でこの環境ですよ。ちょっとしたことでドヤドヤっと人がきて荒らされてしまいますからね。お互いがマナーに気をつけてこの自然を良くしていけば、この地域に暮らす方は幸せな人生を送れるのじゃないかと思いますよ」(畠山さん)

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